「皆さん、灰になる準備はできてますかーっ!!!!!」
”灰になる”と”ハイになる”をかけたライブ中の煽り言葉。記憶の宝箱の中に熱のこもった歓声とセットで入っている。いつからかWake Up, Girls!赤色担当、センターが使うようになった言葉だ。
あの子達は何を灰にしてくれてたんだろう。彼女たちが解散して3ヶ月あまり経ったいま。その答えは閉じたまぶたの中。
初公開:2019/6/12 更新:2019/6/15、2020/6/15
正解を探して生きていた日々
いつからだろう。物心ついたときから?その日まで私は、全てのことがらに正解を探して生きていた。なんにだって、私の知らないどこかに正解があると信じていた。
自分が間違ってることだけは不変の事実であるから疑わない日はない。いくら自分を疑っても正解にはたどりつけなかった。こうしていればよかった。ボタンの掛け違いのような失敗が続く。
私以外の人々は正解を知っているのに、私だけが正解にたどりつくことができない。
「最高効率の最適解の正解」を知る私以外の人々は正しい努力をして結果を出していった。結果が出ないものは無駄で、評価されないものも同様に無駄で正しくないということを彼らは行動で示した。きっと、私は私だから正しくないんだ。そう感じるたび私の感情は外側から真っ白に塗りつぶされていった。
まるで誰でもない誰かに、私を最初からなかったことにされていくような。あのときああしていれば、なんてわかりっこない。私は私以外の誰かにずっとなりたかった。できることならそうしたかった。
テレビで事件の報道が流れるたび、どうして私は誰かの代わりになれないんだろうと思った。そうやって泣きたくなっても涙は出なかった。涙という感情が枯れてしまったことを理解したとき、私はなんて空虚な存在なんだろうと思った。
けれども。わたしは……WUGに出会った。
正しい、正しくないに関係なく
正しい人々は、WUGという存在そのものを正しくないと笑った。私もそれが正しい評価なのだと思って正しい人々の真似をして私は人間ですよ、という顔をする人間ごっこをしていた。
あるとき、WUGのアニメと向き合うきっかけをくれた人がいた。初めて向き合ったWUGアニメはちっとも正しくなかった。アイドルマスターほど絵がきれいじゃなかった。ラブライブほど楽しい世界でもなかった。
でも、一生懸命だった。
島田真夢も、林田藍里も、岡本未夕も、菊間夏夜も、
久海菜々美も、片山実波も、七瀬佳乃も、大田邦良も、
そしてその時はまだ名前を知らない次回予告に出てくる”中の人”達も。
それぞれが希望や大切な人達への想いを大事にしながら全力で生きていた。
たとえ笑われても、何を言われても止まらなかった。
世界では彼女たちは正しくないのかもしれない。けれど世界がどう評価しようとも、私は彼女たちの姿を正しいと思えた。彼女たちはきっと間違ってない、人生で初めてそう信じられた瞬間だった。
WUGへの愛にあふれた記事を見た。正しい世界の人たちが笑うような物語の解釈をしていた記事だった。唸らされた。本質を見ていた。この人の書いていることは間違ってるだなんてちっとも思えなかった。
なにが正しいのか、正しくないのかなんてもうわからなくなっていた。きっと正解なんてどこにもないんじゃないかと考え始めていた。
「とりあえず仙台に観光に行くぞ、WUGの聖地巡りできるだろ」そう言ってとある男に仙台に軽自動車で連れて行かれた。「WUG1stツアー千秋楽のチケットが余ってる。俺は見るけど、君は?」と聞かれた。きっとこのライブには人生を変えてしまう何かがきっとある。兆しを感じた。そうして自分の意志で見た、人生初のライブ。
“中の人”である声優ユニットのほうのWUGの姿も、とにかく一生懸命だった。WUGのファン、ワグナーも一生懸命だった。お互いがまっすぐ向き合っていた。
他のものはその間に入る隙間なんてなかった。その瞬間を全力で生きていた。私はその凄まじい熱量を身体で感じて、自分はその中に入ることはできないんだろうな、と思ってしまったそのとき。
突然、”言の葉青葉”で客席側から男性の歌声が重なっていった。
それはセンターの子が涙で声を詰まらせた瞬間に、その部分をワグナーが歌いはじめた光景が目の前にあると理解したとき。
…ライブはアーティストが一方的に作るものではなく演者とファンが作る空間だということ。
…演者とファンの間で幸せや元気を伝えることができたら、お互いに伝えた以上にそれが返ってくるということ。
…そして、そうした幸福の再生産の連鎖がここで生まれるのだということ。
そんな事実を私は感情で受け止めていた。あたたかくてきれいな感情だった。きっとその時の私は、涙を流していたと思う。
私が心から信じられるものを目撃できて、このライブを見ることを選んだ私は、誰がなんと言おうと間違ってなかった、って自信を持って言えた。
閉じたまぶたの向こうでも輝き続ける星のように
そうして1年くらい経ったある日。あの1stライブツアー仙台公演を思い出しライブ後のWUGメンバーブログを探して、タイトルが「私の居場所@まゆ」という記事を見つけた頃だっただろうか。
その時わたしがWUGから受け取った想いや物語はわたしだけのものなのだとふと気がついた。その中にある感情は誰かの評価するものや正しさとは切り離されている。
正しくても、正しくなくても自分の感情を否定しなくていい。それに気がついたとき、私の心を真っ白に塗りつぶしていたなにかが、燃え尽きるように思えた。足元に散らばる灰色のそれは、誰かの言葉の枷だったかもしれない。
どんなに間違ってると言われたって、夢中になれるものへの想いは誰にも渡さなくていい。それを続けていられる限り、私は誰かになりたかった私ではなく、私として生きていける。感情を掲げて他のことはなんにも考えず、大好きなものの尻尾を全力で追いかける人の姿は傍からみたらバカに見えるかもしれない。
でも、私はそういうバカになりたい。私が見てきたワグナーはWUGに、推しに、夢中で真剣な人たちがたくさんいた。大好きなものにバカになるほど本気になれる人の眼差しは本当にかっこよかった。そっち側に向かって走り出してしまったと実感した時、間違いなく私は私の人生を生きていた。
WUGに出会ってからの時間は最高に濃い時間の過ごし方をした。特に解散発表から2019年3月8日の解散までの時間は本当に濃密だった。振り返ればあっという間だけど、半年が数年分くらいに感じられた。
ぜんぶが私が私になるまでの時間。これはきっと青春と呼ばれる類のものだ。だからなのかもしれない、汗と熱気に満ちた会場のあの雰囲気を思い出すことができる。
つまり想い出の中にある風景の一つになったのだって自信を持って言えるだろう。道に迷った時、生き方に迷った時、しんどいときほどあの頃を思い出す。夢中になれる幸せな時間がそこにあったと断言できるから。
目を閉じれば、アンコール前あたりの、あの雰囲気、記憶の中の吉岡茉祐が吠える。
「みなさん全力で声出せますか!!!!!!!」
何かに真剣に向き合う心地よさも、間違ってても信じられる何かがあることも、自分の想いを大事にすることも、全部全部、WUGが教えてくれた。この出会いはほんとうに最高の出会いだった。
私は最後に私なりの感謝を、伝えることができたと思う。最後の一年。自分なりになりたいオタクになろうとした。大田さんになりたかった。ファンを増やしたかった。多くの人にWUGを知ってほしかった。ブログを作って色々書いた。SSAに行くかためらう背中をそれなりの数、押すことができたのは密かな自信につながっている。
だからこの先に何も後ろめたいことなんかない。
「まだ声出せるんじゃないですか!!!!!!?」
私は、誰かになれない。でも誰かになんてならなくていい。私は、私から逃げることなく生きていくしかない。正しいとか、正しくないとか、そんな言葉に怯えて何かを諦めた先には後悔にまみれた明日しかない。けど、そうじゃない生き方もあるってWUGに教えてもらった。
わたしの感情を知ってるわたしの代わりはどこにもいない。わたししかいない。何があったって、わたしはこの感情を燃やし、その度に涙を流していいってことを知った。
この世界で生きていてもいいんだって、いまそう思える。ずっと真っ白なキャンパスのような世界に生きてきた。それでもこんな出会いがあるんだって事に気がつけた。この世界に色がついた瞬間だった。
WUGに命をもらったって、言ってもいいのかもしれない。そんなだからSSAで山下七海に「ワグナーさんはいつも話が大きいですね」って優しい声で言われた時、涙まじりの笑顔になってしまうんだ。
いま手元にある記憶も、感情も、人生の宝物だ。ずっと探していた、わたしがわたしでいていい理由。これだけは誰に何を言われても、絶対に価値のあるものだって胸を張って言える。
「明日のことは考えない!!!!!!!」
「……灰になる準備は出来てますか!!!!!!!」
彼女たちが焼き尽くし、灰にしたもの。……私にとっては、誰かの言葉の枷だけじゃない。WUGは、誰にもなれなかった過去の私も灰にしていった。
ここに生きているわたしが手にした人生の宝物に実際に触れられるなら、きっとダイヤの形をしているんじゃないだろうか。(最近は遺灰からダイヤが作れると聞いた)
何から何まで、いまのわたしはWUGでできている。たくさんの幸せをWUGにもらってしまった。
WUGにもらったものをWUGに返せないなら、これから多くの人を幸せにしたい。
だっていまのわたしは本当に幸せで、誰かを幸せにできる気すらしているのだ。
Wake Up, Girls!記事連続投稿企画「はじめましてのパレード」
に向けて書いた記事です。
岩手公演の記事。