自分だけの宝物を競り落とす新体験「TCGオークション」レポート

カードゲーム

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2021年11月14日にベノア銀座で開催された「TCGオークション」。こちらに参加したのでその中で感じたことや見えてきたものをレポートしていきたい。ちょっと長めの内容になっているがお付き合い頂けると幸いだ。

イベントを通しての流れ

壇上に立つMCの進藤キーチ氏

TCGオークションではよく想像されているオークションの形式である「ファーストプライスオークション」が採用されていた。一番高い金額で入札した人がその金額で購入するというルールだ。

それぞれ参加者ごとに割り振られた数字の書かれている「パドル」を掲げて金額をコールする(=その金額で入札したいと意思表示をすること)。参加者はその時の入札価格より高い金額のみをコールすることができる。

入札価格以上の入札者がいなければそこで落札となり、MCの進藤キーチ氏が競売人としてガベル(=木製のオークションで使われるハンマー)を振り下ろすとカン!という音が会場に鳴り響く。

自分自身で物の価値を決定するという体験

入札中、パドルを手で掲げている間はメルカリもヤフオクもカードショップのホームページも見ることができない。手がふさがっていてスマホを見るのが物理的に難しいということもあるが、その瞬間はそういった「市場価格」から離れて、入札価格という形で自分自身が出品物の価値を決定することになる。

日常で売られているものの価格を自分が決めることは稀だ。TCGのカードであれば販売者や購入する人の需要量や供給量が市場価格を形成していくのが常である。値引きをする機会はあっても値段を上げるという機会はなかなかない。

もちろん落札を競い合う他の参加者の存在を忘れるべきではないが、自分が買いたいカードの価格を決定するということは日常ではなかなかない体験になると言える。

自分で値段を付けて買うという体験を通じて取得したものは、たとえ落札した価格が市場価格より高かったということが起きても、自分がその値段を付けたという付加価値は失われないはずだ。

まだ誰も値段をつけていないものに出会えるかも

TCGオークションの出品物には市場価格が判明しているものも、希少なもの、市場に出回っていないため市場価格のデータが存在しないものも含まれていたのだが、世界でまだ値段がつけられていないものに価格をつけられるという機会も日常では希少なことだろう。

「相場でいくらだから高い、あるいは安い」という価格から「だから欲しい」といった価値観が作られるのではなく、「このアイテムはこの値段がふさわしい」という個人の価値観から価格が決まるという逆転現象が発生する。順序として逆の事が起きているはずなのに、とても自然な事として認識できるのが不思議だった。

立地は銀座だが会場はカジュアルだった

カラオケパセラの下!という立地。内装はキレイだった

会場の近所にカードショップがあるような立地だったなら、なんとなく入札価格を「市場価格」と比較してしまう気がする。そういった所で銀座という立地に意味があったかもしれない。

TCGオークションの会場であったベノア銀座はカラオケパセラ銀座店の地下にある比較的カジュアルな施設だ。ドレスコードのないオークションイベントだったが、会場にはスーツやジャケット、ビジネスカジュアルの服装の参加者が多く見られた。カジュアルな服装の人もそれなりの数がいた。

銀座と聞いて参加にあまり尻込みする必要はなかったのでは……いうのが正直な感想だ。次回開催の時は、興味をお持ちであれば気軽な服装でも問題ないので参加を検討するべきだろう。

会場とMCの雰囲気は明るい

会場の雰囲気も厳かというよりは時々笑い声が響くような明るいものであり、出品物が落札されると会場から拍手が上がるのはそこにいて心地いい要素だった。

進藤キーチ氏のMCも軽妙かつ、雰囲気を良くするのに貢献していた。オークションの最中ちょっとした間が生まれると出品物にまつわるエピソードやその時代を知っている人なら思わず笑ってしまうような話題で場をつないでいたのがとても好印象だった。

一番印象に残っているのは遊戯王デュエルモンスターズのイタリアのイベントで40枚配布されたのみの出品物「ライトニング・ボルテックス」に関するトーク。

「ライトニングボルテックスは最後の1枚辺りに雑に突っ込んでおくけど、最終的に抜けていく枠ですよね。手札コストで手札捨てられるのがいい。1枚でいいならサンダーボルト、後攻で捲るならライトニングストーム、自分も巻き込んでいいならブラックホール、罠重視なら激流葬もいいですね」とデッキ構築に関して採用時に競合候補になるカードを並べていたのが遊戯王プレイヤーならではの内容だった。

参加人数は少なめ。理由を考える

私が会場に入ったのは会場15分後。その時の参加者は他に3人だったので人は集まるのだろうか、と心配になってしまったのだが、最終的な現地の参加者は20~30名。それでも会場のいわゆるキャパ、収容人数は着席イベント時50~120名、立食イベント時50~200名となっていたのでやはり少ない。

感染対策を考慮して参加者上限を60名と仮定しても50%を下回る参加者数だったのは興行として見たときにはやはり心配になる数字だ。

以前に全く別の運営で開催されたイベント内TCGオークションが炎上して評判を著しく下げていたことで「参加するかどうかと聞かれれば参加する気はないけどオークションイベントの成否は気になっている」という層の声はSNS上で多く見られた。

落札物の取引を円滑に進めるため、入札に参加するにはチケットサイトでのチケット購入に加えて事前に個人情報を登録する必要があった。本人確認書類の提示の必要もあり、警戒心の強い人や面倒を嫌う人にとってはハードルが高かった。

これらの要素が複合した結果、会場、ライブ配信を含めて参加人数の少なさが目立つことになってしまったという印象だ。

参加人数が少ないオークションに起きること

オークションの参加人数が少ない分、競合相手が減るため相場より安い値段で落札されることが何度か起きた。市場価格の3分の1程度では?という落札値がつく場面すらあった。

これは出品物を安価に落札したい人にとっては見逃せない事実ではある。考えようによってはポジティブな要素であり、オークションに参加すれば安価での購入機会が得られるかも、ということで次回開催に参加する意欲を掻き立てるものになる。

それで参加者が増えてしまえばこのような安価での落札は起きにくくなるので、実際に安価での落札を求めて参加するとがっかりしてしまうところはあるだろう。

しかし、こういった価値の高い出品物を安く落札できることがこのTCGオークションの魅力ではないと肌で感じることができたのだ。

会場にいて初めて見えたもの

会場の雰囲気は落ち着いていたが、静かに盛り上がる場面が何度もあった。その熱は入札に参加できる資金力を持っていなくとも感じることができた。

参加者が自分の声を張り、MCを交えながら高い金額がどんどんコールされる様はまるで札束が空中で飛び交っているのが見えるようだった。

自信なさげに小さな声でコールする人、力強く一気に現在価格から高めの金額をコールする人、苦しそうな声の入札単価ギリギリの金額をコールする人と多種多様だが、それらの声に共通するものがある。「これが欲しい」という感情だ。

「これが欲しい」は日常に隠れがち

他人の「これが欲しい」という感情が露わになっている姿を目の当たりにすること自体が現代社会の日常生活においては少ないと言っていいだろう。接客・販売に携わる仕事をしているか、バーゲン会場にでも行かない限り、リアルタイムでその感情に触れられることはあまりない。

「欲しい」という感情そのものは人生にありふれている。しかし求めるということ自体が感情という自然に湧き上がるものに直接繋がっているとも言える。だからこそ他者にそれを見えるようむき出しにするのは恥ずかしい、「おねだり」と見られたくない……という意識が働いてしまうのかもしれない。

そうして「これが欲しい」という感情は人に見せにくくなり、プライベートな感情として意識の中で消えていくか、インターネットの文字列に変換されて消費されていく。

会場の空中でぶつかっているのはお金だけではない

TCGオークションにおいてコールする声を通してぶつかりあっているのは決してお金だけではなかった。「これが欲しい」という気持ちがとても生き生きと感じられたのだ。

私自身も金額をコールして入札する機会があったのだが、その瞬間に「これが欲しい」という感情が自然と自分の外に出ていったのがわかった。日常においてこういう機会は貴重だという事実に気付けたこと、それ自体に新鮮な心地良さがあった。

そこにいればコール一つ一つに沢山の「欲しい」が込められていることに気付くことだろう。参加者たちの気持ちがぶつかり合うのは想像以上のドラマチックさがある。他の参加者の熱い気持ちが伝わってくるだけでこちらも楽しくなってくるというものだ。

TCGオークションはただのオークションサイトのリアル版ではなく、参加型のショーとしての面があった。これは間違いなくこれまでになかった楽しみ方のできるイベントではないだろうか。

オークション後の抽選会は超豪華

景品の内容

オークション終了後の会場参加者のみ参加できた抽選会は景品がとても豪華だったということにも触れたい。

景品は協賛の(株)GAIAMONDさんの「トライリス」(英語表記はTRILITH)が含まれるものが多い内容だった。下位賞の「フルプロテクトパックS」「フルプロテクトスリーブR」はTCGのブースターパック、レギュラーサイズのカードを保護、保管する商品でトライリスと合わせて使用が可能。こちらにもUVカット機能がついているのでコレクションに便利。

トライリスはお気に入りのカードを保管と展示を同時に可能にするTCGコレクター向け商品だ。分かる人向けの表現だと「フルプロテクトシリーズにピッタリサイズの国産スクリューダウン」。同様の他社製品の中では高額だがネジが目立たないつくりになっていたりと他にもこだわりが行き届いた「分かる人には分かるいいやつ」である。

UVカットつきの透明なアクリル板でカードを挟み込むもので、フルプロテクト〇〇と適合するサイズのアクリルフレームの3点を合わせて使用可能な状態になる。

今回の景品はRサイズのアクリルフレーム+フルプロテクトスリーブRがセットになっていてすぐに使える豪華仕様になっていた。

トライリスの展示と販売が欲しかった

書いている私は抽選会でトライリスが当選。実際に手に取るとすごさがわかる素晴らしいプロダクトだった。このトライリス関連商品はコレクター向けのこのイベントの抽選会の景品としてふさわしいものでターゲット層にも合っている。

もしわがままを言わせてもらえるなら、これらを会場内で展示、販売してもらえると嬉しかったところ。というのも販売場所はオンラインの公式ショップ、カードラッシュ通販、あとはユーザー出品のみと限られているからだ。

休憩時間などの間に手に取れたり、そのまま購入することができれば認知度向上にも繋がりやすかったのではないかと思う。

Just a moment...

全体的に手探り感がアリ

今回の開催は初めての試みということもあり、Twitterでの情報公開、リツイートキャンペーンなど広報の段階から手探りの箇所は多くの箇所で見受けられた。

イベント開催告知後に新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が発令されイベントが延期になってしまった。参加料が当初有料であったが参加料無料に変更されるという大きな変更もあったのだが、その告知を行ったツイートはあまり拡散されなかった。

残念ながら告知から開催まで大きく時間が経ったことでイベントへの興味が薄れてしまっている人は多かったようだ。

ここからは次回開催で改善を期待したいというポイントについて書いていく。

オンライン入札でのタイムラグ問題

オンライン入札は事前に登録した方のみが見れる形でのYouTubeライブ配信上において行われていた。会場の映像をインターネットで中継するシステムのため、オンライン参加者が見ている画面と会場にはタイムラグがどうしても生まれてしまう。

オンライン参加者はYouTubeのチャットにあらかじめ決められたテンプレートで入札額を入力することで会場にいなくても入札を行えるというものだ。

しかしオークションが始まって最初の方の出品物は会場での落札までのスピードが早く、オンライン入札システムとのすり合わせがうまくいってないのでは、という感覚があった。

しばらくするとオンライン入札側でのタイムラグを考慮しつつオークションを進行する、という形式になっていったが、イベント中に「進行が早すぎて入札したのに落札できなかった」といったクレームが入ったことを考えてしまう出来事だった。

現地中心のイベントでも良い

次回開催ではこのあたりのシステムの成熟度が上がってくるとオンライン入札もストレスフリーになるのでは、とも期待もある一方、オンライン入札では会場での温度感としか言いようのないものが味わえなかったようにも思う。

会場にいなくても同じような楽しい体験を提供する、というのは今日ではエンタメ業界の人々が苦労していることそのものであり、これを達成するのは相当難しいことのはずだ。

会場での体験を強化するためにイベント運営リソースを現地に集中するという選択もTCGオークションの継続開催においては重要かもしれない。

イベント当日の出品物展示がなかった

今回は現物は事前に展示、会場では展示なしという形になっていたのだが、実際に壇上に現物があったほうが盛り上がるな……と感じられるシーンが何度かあった。

事前の展示会の様子

高額な出品物の真贋判定を自分の目でしたいという声が聞こえていた。スマートフォンの画面に表示されている公式ホームページの出品物画像をギリギリまで拡大して状態を確かめている参加者を何人か見かけた。

PSA10といった外部の真贋照明、状態の保証があるものは安心して入札されていたように見える。「こんなに希少なものが目の前にあるのか!」という驚きや喜びにつながる要素でもあるので、何としても現物展示を実現してほしいところだ。

出品物の価格と最低落札価格

TCGオークション公式サイトより引用

事前から出品物のいくつかは最低落札価格が設定されていることが発表されていた。その額もかなり高いラインであり、最低落札価格が設定された出品物は元から高額な物が多かったため、一度も入札されないまま落札者なし、となる事が多かった。

最低落札価格とは別に参考価格というものが公式サイトで公開されていたが、入札開始価格、最低落札価格は当日会場でその場にならないとわからないもので、その設定基準は未公開だった。その基準が気になった人も少なくなかっただろう。

目玉となっていた出品物ほどその傾向はあったように思う。

遊戯王/ファイヤーウィングペガサス、ポケモンカードゲーム/「かいりき」リザードンはやはり目玉といっていいものだと思うがこれらはどちらも最低落札価格が設定されていた。

いくらになるか楽しみに来ていた人が発表された最低落札価格の高額さに肩を落とすシーンもあった。「高額のため落札者なし」という出品物が連続して出てきてしまうと、会場内のテンションが少し下がっている感覚はさすがに感じられた。

入札が一度もされないということを減らすのと、高額な出品物の低額での落札を防ぐための最低落札価格というシステムは相反するものなのかもしれない。そのため設定基準を決めるのは苦労しそうなところだが、どんな基準でもいいので最低落札価格はある程度公開されていると当日がっかりする人は減らせるのかもしれない。

出品物の価格帯、アイテム数、ジャンル

最低落札価格が設定された高額なもの、そこまではいかないがそれなりに高額なもの、低額なもの、まだ値段がついていないものの4パターンがあったが、高額なものがやはり多くを占めていた。

その中でも入札機会が多く盛り上がったのは20000円以下で落札された価格帯のもの。全体としては低額なものが多かった。ちょっとしたTCGに関するアクセサリー類も入札機会を増やすかもしれない。

オークションに出品されたのは45アイテム。そのため15アイテムずつのオークションが3部に分かれて行われた。正直なところ結構な長丁場であり、商品点数が多かったのが開催時間、開催規模が大きくなる直接的な要因だろう。

ジャンルごとの出品物の量は遊戯王>デュエルマスターズ>ポケモンカードゲームで、自分の好きなジャンルではないと興味がない、ということも起きるかもしれない。エラー品も5アイテム程度出品されており、希少なものではあるがエラー品に興味のある人でないと手がなかなか出にくい。

このあたりの調整は難しいとは思うがある程度ジャンルを絞ることでアイテム数も絞られてくるかもしれない。

運営者を育てるのは参加者

TCGオークションが始まる前の会場

参加者やTCGオークションを気にしている人たちが、何かほころびを見つけた時にとりあえず叩くのではなく、長い目で見たときにどう影響が出るのか?という視点を持ち、運営者に適切な形で伝えられるかどうか。

それが今後TCGオークションがもっと素晴らしいイベントになるか、イベントそのものがなくなるかを分けるポイントかもしれない。

運営者と参加者との間で信頼関係を担保できるものはネームバリューといった権威性だけではなく、それまでのやりとり、実績なのかもしれない。これは参加者に真摯に向き合いながら改善を続けていくことで自然と生まれてくるもののはず。

お互いがお互いの方向を向いて逃げない関係がイベントの規模や質を上げていくことにつながっていったら、それは強い関係と言えるだろう。

「宝物」を持って帰れる楽しい場所

ここまで色々書いたが、全体的なイベントとしては本当に楽しめるものであったし、得られるものは大きかった。

トレーディングカードゲームを新しい切り口で楽しめる新ジャンルのイベントとしてオークションが国内に根付くと、遊ぶ、集める、交換する、だけではなく「コレクションする」もメジャーな楽しみ方になるのではないか。

カードショップやマーケットで買うだけではなく、自分で値段を付けた「宝物」を所有できる喜びは間違いなく価値があるものだ。それを提供できる場として、今後もTCGオークションが開催されていくことならとても素敵なことだと思う。

TCGオークション公式Twitter https://twitter.com/tcg_auctions

記事中引用されている画像の出所:
TCGオークション公式サイト https://www.tcg-auction.com/
シコウノラボ https://www.youtube.com/channel/UC9YYExVdbGpGyLr3nJI8Wag
進藤キーチ氏のTwitter https://twitter.com/coby_wisteria

文:赤雪すずみ https://twitter.com/ustes_ikes